ライブ当日、僕が想っていたこと その4

食事とするために楽屋に入った僕。

 

実はこの「有楽町 I'M A SHOW」という会場は、以前映画館だったところ。

 

その映画館をそのままあまり手を加えずにステージを作って劇場にし、去年の12月にオープンしたばかり。

 

だから新しいけど、中は相当年季が入っている。

 

映画館だったから、正式な楽屋というものがない。

 

スタッフが行き来する広い廊下だったところに間仕切りをして、楽屋ふうな場所を急遽拵えたという感じ。

 

一応、洗面台と鏡は横にながーく付けられていて、メイクなどを整えることができる。

 

通常の鏡前とは違って幅の狭い板が横長に壁に付いているだけで、あまりメイク道具なども広げられない。

 

ま、楽屋というのは、あくまでエンタメの裏の奥の方にあるものであって、ステージや客席が充実していることが何より肝心なのだ。

 

細かいことは気にせず・・・というか、楽屋に対して不満を感じたことは今までないけど、与えられた環境で最大限の自分を出すことが、今の僕に課せられた使命。

 

だって、今夜のステージの出来栄えを、誰かのせいにはできないし、まして、楽屋が狭かったとか、スタッフたちが頻繁にタバコ吸いに来てガヤガヤうるさかったとか、そんなことを理由に「だからステージが成功しませんでした。あしからず…」なんていうわけにはいかないのだ。

 

ひとりひっそりとお弁当を突いていると、事務局のU井さんが入ってきた。

 

「コンコン、ジョイさーん! U井でーす! 入ります! 」

 

すべてに「!」が付いているほど、テンションが高い。

 

「ちょっと打ち合わせさせてもらっていいですか!? 」

 

「どーぞどーぞ、というか一緒に食事しちゃったら? 」

 

「いいですかー!? いただきまーす! 」

 

なんだ最初から自分の分を持ってきてた。

 

今日のこれからのホール作りの段取りなどを確認。

 

チケットは完売しているけど、受付で当日清算の人もいたり、立ち見席まで完売しているからの混雑予想など、そのあたりの打ち合わせというか、確認というか。

 

これはこうします! ここはこんな感じです! という、すべてもう決めてしまっていることの報告だったりする。

 

そうでいてくれて有り難い。

 

それぞれの担当で責任持って自己判断して進めていくチームがいい。

 

困ったり、悩んだら相談する。

 

それ以外はプロ意識高めて自己判断でいく。

 

今夜の僕の頭はもうステージングでいっぱい。

 

それ以外の話は、馬耳東風というか馬の耳に念仏というか、ジョイの耳に事務案件という感じで、もうなにも入ってはこない。

 

僕のここからの仕事は、13時からのリハーサルでスタッフとのコミュニケーションを取り、本番の19時に体調とテンションと意識をMAXに持っていく。

 

それだけだ。

 

U井さんが持参した食事を半分も食べずに、しゃべるだけしゃべって「あーあー! 緊張するぅぅぅー!! 」と叫んで楽屋を出て行った。

 

ふたたび、シーンとした楽屋にひとり。

 

会場内のことがわかる映像モニターもスピーカーもここにはない。

 

もともと廊下だからね。

 

そうした映像ケーブルなんかを配管していないのだな。

 

ま、いいや。お腹も膨れたし、少し落ち着いて進行台本など確認しておこう。

 

今夜は新作のエンタメばかりだし、ステージングの演出自体が、全然今までとは違うから、リハーサルがとても重要になる。

 

リハの時間配分を間違えると、スタッフたちとの段取りを確認せずに本番…なんてことにならないように。

 

特に演出イメージは今のところ僕の頭の中だけにある。

 

台本には書き起こしてあるけど、それはしょせん文章として書ける範囲のものでしかない。

 

草案した僕だって、実際の現場に立ってみないと、その演出効果がどれくらいなのかわからない。

 

たぶん相当な変更点が出るだろう。

 

でも、大丈夫。

 

うちのスタッフたちは、みんな大ベテランたち。

 

そのあたりもしっかり心得ていてくれるだろう。

 

リハーサルまであと1時間。

 

僕はひとりイメージングする。

 

 

・・・続く。