ライブ当日、僕が想っていたこと その3

ロビー奥の一般立ち入り禁止エリアの奥に神棚がある。

 

芸能と呼ばれる世界の人たちは案外、験担ぎをする。

 

僕もどちらかというとジンクスみたいなものを大事にしているし、ライブに向けて色々と験担ぎなんかをする。

 

ライブ前までに300㎞走ると決めて三日前くらいにそれを達成した時に

(あーもうこれで本番大丈夫だ)なんて、なんの根拠もつながりもないのに、実際に少しホッとした。

 

ま、2時間出突っ張りのワンマンステージには、それなりのスタミナも必要だったりするから、走ること自体はステージ成功のちょっとした成分にはなっているかもしれないけど、その99%は、自己満足だったりする。

 

それは自分でもわかっているけど、その自己満足こそがステージに立つメンタルには欠かせないのだ。

 

もしも僕にビートルズのイエスタディのような絶対的無敵なヒット曲があって、それさえ歌えばお客さんは満足してくれる…なんてものがあればいいのだけど。

 

残念なことに、僕にはヒット曲はないし、そもそもそういうステージでもないし、どうしてわざわざ100%アドリブの、しかも自分次第というより、その日にいらっしゃるお客さんいじりのライブステージなんていうものをやる人生を選んで生きているのだろう? と自分を恨めしく想ったりする。

 

最近は、覚悟決めて自ら望んでやっているから、そうでもないけどね。

 

でも、本番が近づいて、事前に準備できることがほとんどなくて(体調管理とかは結構神経質にやるけど)

 

大丈夫かなぁ…と緊張感が増して来たりすると、

 

(なんでこんなことやってるのかなぁ…)と、一度きりの人生の選択肢としては、完全に想定外のものを選ぶ自分の変態度に呆れたりする。

 

そんなわけで、神棚に一応、手を合わせる。

 

「おや、ジョイさんも神頼みするの?」

 

と、プロデューサーがどこからともなく登場。

 

「そりゃぁしますよ。あんなリスキーなステージに立つんですから」と冗談混じりに返す。

 

「リスキーなステージって、ああた、頼みますよ」

 

「そういえば家族から写メ届いてね、今朝卵割ったら双子だったって。だから今夜のステージは大成功だって。僕まじまじその写メ見入りましたもん」

 

「へぇ〜そーなんですね。ジョイさん、食事の準備ができましたので、いつでも好きな時に済ませてください」

 

プロデューサーと軽い会話を交わしていて、気持ちが軽やかになる。

 

軽口の中にも気を遣ってくれてる感が混ざっていたのがわかるからかな。

 

僕は食事を済ますために楽屋に入った。

 

 

 

・・・続く。