ライブ当日、僕が想っていたこと その2

 

マリオン別館の一階からエレベーターに乗る。

 

エレベーターの中にもポスターが貼られていた。

 

迎えてくれたスタッフは仕込みの状況などを報告してくれる。

 

みんなテンション高く動いている感じが伝わってくる。

 

早く現場の空気を吸いたくなるけど

 

顔を出すにはまだ少し早い。

 

我慢してひとまず楽屋へ荷物を入れる。

 

スタッフが衣装をハンガーにかけてくれる。

 

僕は鏡前を作り始める。

 

鏡前を作るとは、メイク道具やヘアのセットアップ道具を使いやすいように並べていくということで、役者だった頃からの習慣で、楽屋に入ったらまず真っ先に僕がすることだ。

 

楽屋を自分に仕様に整え、時計を見ると、まだ10時。

 

我慢の限界。

 

こうしてみると、僕は我慢が苦手なようで、すぐに限界が来てしまう。

 

かといって、“短気”というわけではなく、どちらかというと、“せっかち”という表現があっているだろう。

 

結局待ちきれず、ホールに顔を出す。

 

客席後ろからそーっと覗けばいいかな。

 

ホール内では、夕焼けをイメージした照明のネタの微調整をしていた。

 

今日はプロジェクターでいくつかの映像も出す予定。

 

加えてステージや客席内もリアルタイムでカメラが追い、その映像を中継して映し出す。

 

今回のホール「有楽町I'M A SHOW」は、元々映画館だったから、どの席からもステージが見やすい。

 

客席最後尾には立ち見席もあって(今どき珍しいねぇ)、今夜はその立ち見席も売り切れになっていると聞く。

 

2時間越えのライブだけど、立ち見の人たち大丈夫かなと少し心配する。

 

そーっとのつもりが、さっそく数名のスタッフたちに見つかる。

 

「あ、おはようございまーす」と、あちこちから声がかかる。

 

僕も挨拶を返しながら、照明チーフのところへ挨拶に行く。

 

もうバレてしまったのだから、堂々と存在をアピールしよう。

 

ただし、照明チーフは特に僕が早く来ることを嫌がる人。

 

仕込みの途中を見られたくないそうだ。

 

完成した照明を見せてOKか否かの判断をしてほしいからと以前言われたことがある。

 

それ以来僕も、仕込み途中の照明については何も言わないようにしている。

 

出来上がって「ジョイどう? 」と言われるまで待つようにしている。

 

舞台に上がって並んでいる椅子の確認はしよう。

 

ステージ上の椅子の位置で、照明や音響スピーカーの設置が変わってくるから、あとで直すより最初に確認して伝えておいた方がいいからだ。

 

でも、椅子の位置はバッチリだった。

 

舞台監督は今回で3度目の参加。

 

もうすでに椅子の位置を把握してくれてる。

 

さすが!!

 

ホールの形や大きさや天井の高さによって、ステージ上の配置などを僕は微妙に変える。

 

そのあたりの僕の視点をつかんでくれているということか。

 

経験値の高いプロの仕事だなぁ。

 

椅子の位置がパーフェクトだと伝えると、舞監も嬉しそうだった。

 

ところがその舞監から言われてしまう。

 

「というか、ジョイさん、早くないっすか?  なんでもういるんすか? 」

 

やばっ。

 

「いや、だってね、みなさんこうしてもう仕込みして動いてるじゃないですか、僕もじっとしていられなくて・・・」

 

と、応える僕。

 

「そりゃぁ、おれらはやってますよ、それがおれらですから、でも、ジョイさんは・・・」

 

「まあまあ、とにかく椅子バッチリだったんで、本日、よろしくお願いします! 」

 

逃げるようにステージを降りた。

 

でも、なんとなく、じっとしてられない僕を感じて少し嬉しそうだったような気がした。

 

半分くらい希望的観測だけど。

 

 

・・・続く。