その2
さて、アメリカでのコーヒーと僕の話。
僕がサンフランシスコでツアーガイドをしていた頃 ( 20歳前後 )、僕はサンフランシスコからベイブリッジを渡ったところにあるバークレー (Berkeley)という街に住んでいました。仕事のパターンはだいたい2通りで、空港にツアー客を迎えに行き、そのまま市内を案内して最後はホテルに無事チェックインさせる。もうひとつは、すでに市内に宿泊しているツアー客たちをホテルでピックアップし、そこからカーメルやナパバレーなど郊外へのショートトリップへ連れて行くことでした。
僕はホテルに迎えにいく早朝のサンフランシスコの時間が好きでした。朝早くにブリッジを渡ってサンフランシスコの中心街パウエルストリート(Powell street)まで行きます。ピックアップの時間が8時半とかであっても、僕は7時くらいには市内に到着します。そうしないと、「一日駐車場」がいっぱいになってしまうからです。時給6ドルでツアーガイドしていた僕にとって、1時間~4ドルとかでチャージされていく普通の駐車場では高すぎて割りが合いません。ショートトリップの戻りは夕方過ぎ、9時間ほど拘束されるので、正規で駐車代を払っていては、赤字になってしまうんです。市内で一番安い「一日駐車場」は、たいてい7時くらいまでに車通勤者たちで埋まってしまいます。だから、どうしてもその前に駐車スペースを確保しておかなければならないのです。その駐車場が通りに見えてくると、( どうか空いてますように… )と、いつもドキドキしながら運転していたのを憶えています。
無事「一日駐車場」に車を停めた後、僕は早朝のマクドナルドでコーヒーを買います。その頃のマックコーヒーは、たいして味にこだわりなどなく、いわゆる薄めのアメリカンコーヒーでした。でも開店して間もない分、ドリップしたての新鮮な香りと味がして、サンフランシスコの朝の空気とマッチした旨いコーヒーに感じました。そのコーヒーを持って僕は近くのラマダルネッサンスホテル(Ramada Renaissance Hotel)へと行きます。ツアー客をピックアップするためではありません。ラマダルネッサンスのロビーで仕事前の1時間ほどを過ごすのです。 僕はラマダのロビーの雰囲気が好きでした。そこで働く人たちと朝の挨拶をかわし、早くからウロウロしている泊まり客たちを眺めたり、ロビーに面した大きな窓から差し込む朝の光を感じるのが好きでした。吹き抜けの高い天井にこだまする英語を聴いていると、薄いコーヒーがまた一段と美味しくもなるんです。僕は、ラマダホテルとはまるで関係のない別のホテルのお客をピックアップしに来た、時間をつぶしているだけのツアーガイドでしたが、いつかは僕もラマダの宿泊客として、朝のこの時間に部屋からロビーに降りてきたいなぁなんて想ってましたね。そのときは、彼女と一緒なのかな、それとも日本の両親を招待して来ているかな・・・なんてイメージングしていたんですね。
今想うと、その頃から僕は早朝にコーヒーを飲みながら、ちょっと先の未来をイメージすることの心地よさ、面白さに触れはじめていたのかもしれないです。それより前の僕の朝の時間は、多くの人がそうであるように、いつもバタバタと慌ただしく、なかなか頭の回転が正常化しないで、不機嫌な状態で過ごしていたように思います。
欧米の朝のコーヒータイムは、日本の喫茶店のモーニングとは、ちょっと違う空気感です。トーストに小さなサラダとゆで卵とコーヒーという日本のモーニングメニューも好きでしたけど、海外のモーニングカフェは、通りに面した大きな窓から入ってくる明るい光が店内の空気を絶対的にステキにしてくれていました。なぜか昔の日本の喫茶店は、なんとなく店内が暗くて、外からの光もあまり積極的に招き入れてなかったような印象があります。( あくまでその当時の僕の印象なのですが )
そういう意味で、朝のコーヒーの印象を良くしてくれた場所がもうひとつサンフランシスコにありました。正確には、僕の住んでいたバークレーにあるカフェ。そのカフェはお店がパン屋と繋がっていて、焼きたての美味しいパンでサンドイッチやベーグルをどんぶり鉢のカフェラテで飲ましてくれるカフェで、僕の住んでいたSan Pablo Ave(サンパブロアベニュー)に面していました。残念ながら、そのカフェの名前を今は思い出せない・・・というより、その頃も僕は正式な店名を知っていたわけではなく、「どんぶりカフェオレの店」と無責任に呼んでいたのでありました。正式な店名は知らずとも、僕はよくそのカフェに行き、ハイスタンドのテーブルとハイチェアーの端っこにお尻を少しだけ乗せて、甘く香ばしいカフェオレをどんぶり鉢で飲みながら、フランスパンのサンドイッチを食べていました。たっぷりのカフェオレが飲めるのも確かに魅力でしたが、それよりもそのお店に集まる人たちがとても魅力的だったんです。中でも、スーツをパリッと着こなして、ハイチェアーには腰掛けず立ったまま新聞を読んでいるビジネスマンが、僕の好奇心をそそりました。なぜなら、その人の足許には、いつも大きなゴールデンレトリバーがタイル床に寝そべっていたからです。それがなんともかっこいい。上だけ見ると、完璧なビジネスマン。でも足許には、だらしなく舌を口の脇からはみ出しているゴールデン。この人は、この決まったイデタチのまま、ゴールデンを自分のオフィスへ連れて行くのだろうか? そんな事が許される仕事ってなんなのだろう? 若く見えるけど、経営者なのかな? どんなオフィスなんだろう? この人が外で人と逢うときなんかもこのゴールデンはいつも一緒なんだろうか? それともその間はオフィスで留守番してるんだろうか? スタッフがその間は可愛いがってくれてるのかな? ・・・なんて、僕の好奇心はどんどん勝手に広がっていきました。
そのカフェにいるときは、特別未来に向けてイメージを拡げていたわけではなかったですが、とにかくそこに集う人たちが、どこかオシャレでかっこ良く、僕はどんぶり鉢の縁から目だけをキョロキョロさせてそんな人たちを観察し、勝手にイメージを拡げ、ますますあこがれを強めていたんです。
その3に続きます・・・

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まさこ (土曜日, 15 5月 2021 08:44)
情景が目に浮かぶお話で魅入ってしまいました。ジョイさんのお話はいつもイメージありきでスっと引き込まれ私もその物語に一緒にいました 笑
イメージの仕方の参考になるなーなど頭で考えて読み始めたりするんだけど、気づいたらそんなこと忘れて聞き入ってしまいます。
イメージの膨らませ方、想いの馳せ方がとっても自由で、でも、自分もそんな風に無理なくイメージしちゃってる時もあったりして。
昔はそんなこと意識したことも無かったけど、イメージングを学んで、今では、自然なイメージができてると、「あぁ、今のやつ、多分これ実現する」って思えて、心がほっこりします。
長くりましたが続きも楽しみにしています。
まゆみ (土曜日, 15 5月 2021 09:01)
日常の、ひとつひとつを好奇心で眺める…考えるとワクワクしてきます。
忙しさに流されていたなぁ、、、今日からまた好奇心を呼び起こして、人生を楽しむスパイスたくさん見つけていきます☺️
加藤さゆり (土曜日, 15 5月 2021 16:19)
一日駐車場に止められた後のコーヒーは気分良く一段と美味しさを増したんでしょうね!サンフランシスコのカフェは焼きたてのパンの美味しそうな香りがお店中広がる中、どんぶりカフェを飲みながらジョイさんの好奇心は止まることがなかったんでしょうね!コーヒーと共に!
まり (土曜日, 15 5月 2021 19:56)
日常のちょっとした時間も、特別な時間に。それも未来のための素敵な時間にできる。
朝の光とコーヒーの香りを感じるお話に、明日の朝が楽しみになりました!