ヘッドライトの中の恩知らずな僕

その頃僕は、

アメリカの養母FRANの家を出て、独りで暮らすことへのあこがれを募らせていた。

 

いつまでもFRANの庇護の下で暮らすことが窮屈になっていた。

恩知らず以外のなにものでもない僕。

でも、安定や安心よりも、アメリカの危険な香りと刺激にもっと接したいと欲していた。

単細胞な頭と心で、自由を求めていた。

 

僕はいつもFRANに守られていた。

これ以上望めないくらい暖かく居心地が良かった。

それまで僕は日本の両親にだって、こんな居心地の良さを感じたことはなかった。

 

でも、次第に、

籠の中の鳥のような気分にもなっていった。

もちろん大きな恩を感じていた。

ここから先の自分の身の振り方をFRANとは何度も話し合った。

 

でも、FRANは僕の自立を理解しようとはしなかった。

アメリカは、僕にとってあくまで異国なのだ。

言葉もまだまだ不十分だし、冒険心だけでやっていけるほど甘くはない。

何より私にはあなたの面倒をみるというあなたの両親との約束がある。

FRANは、その責任を理由に僕の自立を認めなかった。

FRANには感謝していたけど、僕はもう限界まで来ていた。

恩知らずなのはわかっていたけど、正直、窒息してしまいそうだった。

何よりも、甘くはない、簡単なことではないからこそ、自立することにあこがれていた。

本当に単細胞で能天気でどこまでもオメデタイやつなのだ。

 

僕は強硬手段に出た。

FRANの留守に出て行こうとしたのだ。

しかし、計画していたその日の僕は完全なる挙動不審者になっていたのだろう。

あっさり見抜かれてしまっていた。

夜遅くに帰宅の予定だったFRANが、早めに帰ってきてしまった。

FRANの勘の良さに自分の立場も忘れて、僕は感心した。

実の母親よりも僕のことをわかっているのだなぁと。

 

家の前で車に荷物を積んでいるところにFRANが帰ってきてしまった。

あの時僕を照らしたFRANの車のヘッドライトを今も覚えている。

スポットライトの中の恩知らずくん。

すごく気まずかった。

 

いったん家に入って話し合うことになった。

声を枯らしてFRANを説得していたら夜が明けた。

FRANはずっと泣いていた。

そして、最後はあきらめて僕を送り出してくれた。

 

期待と不安と罪悪感と根拠のない自信と、そして、抑えきれない未知への冒険心が混ざり合ったまま、恩知らずな僕は車のアクセルを踏んでFRANの家を後にした。

 

ようやく実現した解放感で僕は幸せを感じていいはずなのに、自己嫌悪と後悔で涙が流れた。

正直、怖さもあった。

 

さて、家を出たのはいいけれど、異国の地アメリカで僕はこれからどこへ行こうか。

右も左も分からない世間知らずの籠の中の鳥が、一切の制限のない大空に放たれた。