いまよりもずっと映画狂だった少年

僕は子どもの頃から映画狂だった。

ニューシネマパラダイスの映画好きなトト少年が、まさに子どもの頃の僕だった。

大人になって自宅に7.1chのホームシアターを備え、そこらの映画館には負けないくらいの迫力で好きなときに映画を観る環境を整えている。

でも、子供の頃、学校をサボってせっせと映画館に通い、大人たちに混ざってドキドキしながら大好きな映画を観ていた頃のほうが、「僕は映画狂だ! 」と胸を張って言えたように思う。ビデオもYouTubeもない時代だった。映画は映画館で観るモノであり、TVで放映される洋画は当たり前にすべて日本語吹き替えだった。子どもながら、吹き替えられた映画には違和感があった。クリントイーストウッドが、日本語を話しているのだから。しかもルパン三世と同じ声で。

 

慣れない手でおにぎりを握り、それを持参して朝から夜まで映画館にこもって、同じ映画を何度も観ていた。それが僕の映画の見方だった。何度も観ているから、次は怖いシーンが始まるとわかっている。そういう時は、そこだけロビーに出て遊んでいた。映画館のスタッフが暇潰しも兼ねて遊び相手になってくれたこともあった。

「なぁ、キミさ、サンダーボルトって映画面白いぞ」なんて、大人たちは僕の映画好きを気に入って密かに大人の情報をくれたりもした。 

 

一日に4~5回は連続で観るから、終わる頃には興奮してよく熱を出した。 そのままフラフラしながら自転車を漕いで家に帰った。

 

何度も観て憶えてしまった好きな映画のシーンを、学校の友だちと再現するのがすごく面白かった。 いわゆる"おままごと"なのだが、真似る対象がお母さん、お父さんではなく、ロバート・レッドフォードやポール・ニューマンやスティーブ・マックイーンやブルース・リーだったのだ。

ハリウッドスターたちの演じるニヒルで格好いい役に自分が成り切ることの楽しさ心地よさは格別で、小学生の僕はすっかり真似ているうちに、その映画のセリフを丸々暗記してしまった。それくらいの集中力と記憶力が僕にはあったわけなのだが、それらの能力が勉強には活かされたことはほとんどなかった。僕の親は、何とも歯がゆく思っていたことだろうと思う。

でも、そんな経験がいまの人生に大きく影響しているのは間違いない。 

僕は自分の人生を一本の長編スペクタクル映画だと考える。自分が主役のその映画の中で、クールに格好よくオシャレに演じようとして、日々試行錯誤している。そういうのが人生なのだと思う。そう考えて、理想の自分の役作りをイメージングでしてみると楽しい。